cinema    映画この1本!!

  私「J」が劇場・ビデオ・テレビなどで見た映画について書いています。
 見たい映画しか見ないので、偏った選択になることはご容赦ください。
 ジャンルもバラバラです。


CINEMA12 「SWEET SIXTEEN」
     (スゥイート・シックスティーン)
2002年/イギリス・ドイツ・スペイン
監督/ケン・ローチ
   脚本/ポール・ラヴァティ
               出演/マーティン・コムストン/ミシェル・クルター/
                   アンマリー・フルトン/ウィリアム・ルアン 他。

 ☆☆☆☆(後からじわじわと来る珍しいタイプの映画)

16 見てる最中も見終わってからも、特段強い印象は無かったのに、日が経つにつれて『あの映画、ひょっとしてすごく良かったかも...!?』と、感想が変化してしまった、私にしては珍しいタイプの映画です。主人公・リアムがその後どういう大人になって行くのか、知りたくてしょうがない。

 まず、お話の舞台であるイギリス・スコットランドの小さな田舎町の空気の陰鬱なこと!「住人共々静かに死んでいる町」といった風情です。これから何が起こり、どんな結末で終わるか予想できるくらいに。それから、映画が始まってすぐに『え!?』と思ったのが、出演者全員が話している英語のものすごい『訛り』。このふたつの要素だけでも、このさびれた田舎町に住む若者達の将来が、決して明るいものではないことは容易に想像できます。
 こんな町に住み、もうすぐ16歳の誕生日を迎えようとする少年・リアムがこの映画の主人公。
リアムは貧しい家庭に育ち、実の祖父と母の愛人(麻薬の売人)(このふたりが、子を子、孫を孫とも思わないとんでもないちんぴら!)の3人暮らし。愛して止まないお母さんは、刑務所の中。リアムは学校を追い出され、親友のピンボールとツルんでいい加減なその日暮らしを続けています。母にも家族にも愛想を尽かした姉は家を出、赤ん坊をかかえながら必死で自活しようとしています。姉は言います。「リアム、今の生活から抜け出すのよ。約束して!」。しかし姉の忠告も、リアムの母を思う気持ち、家族を思う気持ちにはかなわないのでした。手段を選ばず金儲けをし、いつか母と姉を迎え入れるための「自分達家族の家」を手に入れるために...。

 リアム役のマーティン・コムストン(実は彼、この映画への出演が決まるまでは、プロのサッカー選手だったそうです。現在は俳優業に専念しているとか。)が良いのです!ただの反抗的な不良少年から、「もう一度家族と幸せになりたい!」という悲壮なまでの願いを実現するため、大人の世界に足を踏み入れ、親友とも決別せざるを得なくなり、その純粋さ故に大人達に翻弄され、あっという間に挫折する過程を、リリカルに見せてくれます。心の弱さ故に愛人から離れられない母。その母を自分のもとに取り戻そうとするけれど、結局、母はリアムの用意した幸せよりも、愛人を選ぶ。周りの大人達全部に裏切られたカタチになってしまうリアムに、手をさしのべるのは麻薬売買の元締めだけ。極端ではあるけれど、確かに、若者に未来の無い貧しい地方都市の抱える問題を正面から描いています。そして、少年が大人になって行くための通過儀礼を象徴的に描いているとも言えます。欲しい物を手に入れ、夢を実現するためにやみくもに奔走するけれど、何かを手に入れるためにはそれに対する犠牲を払わなければならないし、幸せにしてあげたいと願う相手が必ずしもそれを望んでいるわけではない。人の心は自分の思い通りにはできない。他人ならなおさらのこと、例えそれが家族、母であっても。

 でも。結末が暗かったにもかかわらず、私は明るい気分で映画館を出ました。リアムはただのチンピラではないからです。とりあえずこの映画の最後では、彼は犯罪を犯しました。多分逮捕されるでしょう。しかし彼は、まっとうにチャンスさえ与えられれば、まっすぐに生きていく力を十二分に持っている青年です。リアムのキャラクターと、マーティン・コムストンの演技が、この救いの無い映画の中で小さな希望の灯火として、終始ゆらゆらと揺れているのです。

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