cinema    映画この1本!!

  私「J」が劇場・ビデオ・テレビなどで見た映画について書いています。
 見たい映画しか見ないので、偏った選択になることはご容赦ください。
 ジャンルもバラバラです。


CINEMA14 「TEN MINUTES OLDER/TRUMPET」
     (10ミニッツ・オールダー/人生のメビウス)
2002年/ドイツ
    イギリス
監督/アキ・カウリスマキ/ビクトル・エリセ/ヴェルナー・ヘルツォーク/
   ジム・ジャームッシュ/ヴィム・ヴェンダース/スパイク・リー/
   チェン・カイコー(7人が各10分の作品を監督)
・「結婚は10分で決める」/アキ・カウリスマキ
・「ライフライン」/ビクトル・エリセ
・「失われた1万年」/ヴェルナー・ヘルツォーク
・「女優のブレイクタイム」/ジム・ジャームッシュ
・「トローナからの12マイル」/ヴィム・ヴェンダース
・「ゴアVSブッシュ」/スパイク・リー
・「夢幻百花」/チェン・カイコー

10minutes
☆☆☆☆☆
(この星はビクトル・エリセに対して...)

 映画を見てほんとうに良かった!と思えることは、そう多くはありません。部分的にはすごく好きでも全体の空気が嫌だったり、根本的に相容れない!と思ってしまったり。特にわたしは好き嫌いがはげしい方なので、気に入ったらとことん好きになるけど、少しでも「だめだ」と思ってしまったらもうだめ。

 でも、わたしが「この監督の作品に、はずれ無し!!」と思っている存命の映画監督が2人だけいて、ひとりはテリー・ギリアム。そしてもうひとりが、ギリアムとはまったくタイプが違うけれど、スペイン人で、寡作で知られる、「ビクトル・エリセ」です。
(この二人にセルゲイ・パラジャーノフ(故人)を加えると、わたしのベスト3映画監督)

 「10ミニッツ・オールダー/人生のメビウス」は、「時」/「時間の流れ」をテーマにした、7人の監督による全部で7本のオムニバス映画です。(この映画はもう1本「イデアの森」という8人の監督の8本のオムニバス作品と、対になっていますが、わたしは見るのは「人生のメビウス」だけでいいと思いました。)この7人の監督の名前を見てすぐに「これは見に行こう!」と思いました。なぜなら、この7人のうちの何人かはわたしが最も映画を見ていた、学生時代を過ごした80年代に、次々と話題作・秀作を発表していた人たちだからです。
 当時見て大好きになったのが、まずエリセ。「ミツバチのささやき」で「え?この人は何者だ!?」と思い、「エル・スール」ですっかり打ちのめされてしまいました。「マルメロの陽光」もすばらしかった!今でも無性に見たくなる監督です。その次にヴェンダースの「ベルリン・天使の詩」。これも何度見たことか!!ヘルツォークの「アギーレ・神の怒り」と「フィツカラルド」では、その荒唐無稽な話とクラウス・キンスキーの怪演に仰天しました。ジャームッシュの「ダウン・バイ・ロー」を見たあとは、しばらくロベルト・ベニーニのウサギを殺す真似が流行りました。その彼らが「今どうしているのか?どんなものを撮っているのか?」という興味がありました。映画を見てみました。その印象など、書いていくと...


「結婚は10分で決める」
 /アキ・カウリスマキ
可もなく不可もなく。本当に10分間をそのまま撮っているかんじ。この邦題を見ると、ほんとうに10分で見ず知らずの人と結婚する話!?と思ってしまいそうですが、そうではありません。
 
「ライフライン」
 /ビクトル・エリセ
 
もう!とにかくすばらしい!時をきざむ振り子時計、家族の写真、新聞、家具、一人遊びをするこども、だんだん様子がおかしくなっていく赤ちゃん、その横で休んでいる母親、人々の日々の営み、時計のチクタクいう音に重なっていく生活音。それらを映す構図とテンポ...。世界は、そして赤ちゃんは、破滅(または死)に向かうのか?それとも...!?
これらの要素すべてが相互作用して、このわずか10分の作品の中には、映像として映っている以外の気の遠くなるような長大な時間や空間が、濃密に埋め込まれています。
具体的には、この映画は、スペインのとある田舎町の一家族・1940年の初夏のある朝、という設定なのですが、ヨーロッパにおいてこの時代設定が何を意味するかは明白で、それはその日の新聞が何度も映し出されることで、映画を見ているわたしたち観客にも否応なく知らされることになります。そして、この映画を2000年を過ぎた現在見ているわたしたちは、その日以降、世界の歴史がどう動き、どんな悲劇が起こって行くことになるかも、すでに知っているのです。そういった「歴史的な時間」までも映画の中に巻き込むことで、エリセはわずか10分の間に、「1940年〜2004年までの60数年間」「1940年以前から脈々と紡がれてきた家族の時間」「これから赤ちゃんが過ごしていくであろう時間」の、三つの時間を、この映画を見ている者に生きさせるのです。
この映画は1940年生まれのエリセ監督の自伝的な色の濃い作品です。赤ちゃんは、エリセ自身ですね。
最後の数分で、わたしはこの映画を2時間見てきたような錯覚に陥りました。
「ああ!こんな風に無限の時間を内包した絵を描きたい!!」と思いました。
(「エル・スール」を初めて見た時も思いました。「こんな絵を描きたい!」と。)
この「ライフ・ライン」という映画をエリセと同時代に生きて見られて、ほんとうにしあわせです。
この映画の原題は「Alumbramiento(=アルンブラミエント)」(スペイン語)と言い、「光を与えること」「照らし出すこと」「出産」「誕生」などの意味があるそうです。
 
「失われた1万年」
 /ヴェルナー・ヘルツォーク
 
やっぱりヘルツォークだから!!舞台は未開のジャングルなんですよね!でも...それが全世界的な近代化の波によって、切り開かれ、「文明」にさらされ、生命を失っていく様子を撮っています。これは、強大な資本をもとに大作を制作し、ヒットさせることこそが評価される、という今の映画界で、彼自身が生きるべき「未開の地」(=自らが撮りたい映画を撮り、自由に生きられる世界)を「失ってしまった!!」という、ヘルツォーク監督自身の孤独な「叫び」とも受け取れるような気がしました。それを良いとも悪いとも言えない...往年の彼の映画の狂気とも言えるパワーを思うと、悲しい作品でした。でも、まだ彼にこのような映画を撮る気力があるということは、喜ぶべきことなのかもしれません...。
 
「女優のブレイクタイム」
 /ジム・ジャームッシュ
いやー、特に言うことありません。モノクロでクロエ・セヴィニーを撮りたかったのかなー。
 
「トローナからの12マイル」
 /ヴィム・ヴェンダース
 
ヴェンダースさんも相変わらずな感じで。これは、笑わせようとして作った映画なのでしょうか?ん〜。べつにおもしろくも何ともなかったですけど。他の国の人が見たら爆笑するのかなー?それとも薬でラリッたことのある人なら大ウケするとか!?うーん。今思えば、「ベルリン天使の詩」こそが、彼のフィルモグラフィーの中では異質だったのかな、という気がしますね。わたしはあの映画がものすごく好きで、何度見たかわからないくらい見たんですけど。うん。
 
「ゴアVSブッシュ」
 /スパイク・リー
 
そうそう!日本人はあまり知らないかもしれないけど、前回の米大統領選挙では、ブッシュ陣営の妨害や工作によって不正な選挙が行われ、その結果ゴア候補の得票が正確にカウントされなかったために、かろうじてブッシュが逃げ切ったカタチになったという話です。「話」って言うか、これ「事実」ですよね多分。ただ、そういう妨害工作や駆け引きは米大統領選では当たり前に行われるもののようで、この間の選挙では本当に僅差でそれが行われたので、結局、得票率はほぼ互角(実はゴアの方が多く得票していた!?)でも、お金もコネも強大なブッシュの方に軍配が上がってしまった=勝つべきでない者が勝った、ということです。だからいろいろなことが後から言われてきているわけです。このスパイク・リーの作品は、それを、当時のゴア陣営のスタッフへのインタビューを重ねることで検証するものです。黒人であるスパイク・リー監督の視点は、白人の裕福な保守的キリスト教徒を支持基盤にする、ブッシュ氏への懐疑に据えられています。でも、これだけ「いかにブッシュが汚い手を使ったか!」をあげつらいながら少しも嫌な感じがしないのは、次々出てくる当時のゴア陣営のスタッフたちが、「結局ぼくらはブッシュにハメられたんだよね!!ハッハッハ!」と、非常にサバサバしているからですね。敗者のプライドというのでしょうか?と、同時に、このサバサバ加減が逆に「怖い!」と、わたしみたいなジクジクした東洋人は思ってしまうんですよね。まるでゲームに負けたみたいに、「いやぁ、やられちゃったよね!」って!?その軽さはなんなんだ?アメリカの大統領選挙ってこんなん!?と。今から思えば、ブッシュが大統領になったからこそアフガニスタン攻撃とイラク攻撃は実行されたのだしね。アメリカ人が選んだ大統領によって、明らかに世界の歴史が変わってしまったのだから。でもリー監督はそこまでは言ってないけどね。あれ?これって映画の感想になっているのか???んん???
 
「夢幻百花」
 /チェン・カイコー
 
「締め」はこの人。わたしが大好きな「覇王別姫」を撮ったチェン・カイコー監督。うん。最後を飾る映画として良かったんじゃないでしょうか。(エリセでも良かった気がするけど。)変な男が、決して有りもしない幻想を見ているだけではないこと。確かにそこには失われた彼の家や生活があったのだということ。今、日本の高度成長期を越える勢いで経済成長をしている中国という国の、破壊されゆく「良き祖国」への、カイコー監督からの鎮魂歌ですね。恐らくこれからしばらく中国では、都市ならではの色んな問題が次々に起こっていくでしょう。当然、映画にもそれは反映されるはずです。ちょっと悲しいですね。


こうして感想を書いてみると、なんだか悲しい作品が多かったような...。わたしがそれぞれの監督の若い頃の映画を見ているから、当時と比べてしまっているせいか?それとも「時」「時間の流れ」というテーマでは、悲しい作品が出てきやすいのか???うーん。おそらく、その両方なのではないか?と思ってしまいました。いや、それにしてもビクトル・エリセ監督はやはり群を抜いてスゴイ!!

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