cinema    映画この1本!!

  私「J」が劇場・ビデオ・テレビなどで見た映画について書いています。
 見たい映画しか見ないので、偏った選択になることはご容赦ください。
 ジャンルもバラバラです。


CINEMA15 「The Libertine」
(リバティーン)

       2004年/イギリス
       監督/ローレンス・ダンモア
       脚本/スティーヴン・ジェフリーズ
       美術/ベン・ヴァン・オズ
       音楽/マイケル・ナイマン
       出演/ジョニー・デップ/サマンサ・モートン/
          ジョン・マルコヴィッチ/ロザムンド・パイク 他。

 ☆☆☆☆(以下の文章にはネタバレがありますよ!)
libertine_2
この映画、R-15指定なのに、なんでかうちの近くではファミリー向けシネコン2館でやってました。
本来なら、ミニシアターで細々とやるタイプの映画なのに。。。私が見に行ったのが土曜の夕方。でも、観客は私と友人を合わせて全部で10人くらい?まあ、内容が内容なので、同じジョニー・デップ主演の『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか、『チャーリーとチョコレート工場』(まあこっちも、内容的に『リバティーン』とは違った意味で、かなり微妙ではありましたが...)みたいに、大ヒットする映画ではありません。

タイトルの『The Libertine』は、「放蕩者」「道楽者」「自由思想家(宗教上の)」という意味です。これはもちろん、ジョニー・デップ演じる主人公、「第二代ロチェスター伯爵 ジョン・ウィルモット」を指します。出てくる人物は、すべて実在の人物で、事実に基づいて描かれています。 映像と演出とセリフの過激さの度合いは、「R-15指定」ということから想像してください。(ムダなエロは出てきません)

この監督さん、CM監督として数々の受賞を重ね、満を持しての映画監督デビューがこの「リバティーン」だそうです。

さて。作品というものには、映画に限らず、いろんなタイプがあります。

・最初から最後まで、全部が良い!
・部分的に「?」がいっぱい!でも、全体を流れているものが素晴らしい!
・ここさえ無かったら他は全部良いのに、ここがダメなせいで全部が破壊されてる!
・最初からずーーーっと退屈で、でも退屈だった部分が最後に見事に繋がってブラボー!
・基礎知識が無いと、話がわからない。良い映画なのかどうかすらわからない。
・俳優やビジュアルは素晴らしいのに、脚本がメタメタで大笑い。
・監督はメチャメチャこの映画を作りたかったのね。よーくわかったわ。私も嬉しいわ!

こんな風にね、色々。
そして、『リバティーン』はどうだったかというと、

 始まり方は最高。
 その直後からずーーーーっと、1時間30分、退屈。
 でもジョニー・デップのカッコ良さに我慢して見てたら、最後の20分がすごくて、
 終わった時には中間の退屈を許す気になった。
 これは構成の功罪だと思う。中身の1時間30分がダラダラしすぎ。残念!!
 イギリス王制の歴史、社会的文化的背景が分かっていないと、つらい部分があった。

こんな感じ。

致命的だったのは、イギリス王チャールズ二世から、ジョン・ウィルモットがなぜ「そこまでの寵愛」を受け、作家仲間からは「天才」とまで呼ばれていたのか?が、ちっとも描かれていなかったこと。「ジョン、キミは天才だ」と、周辺の人物に、セリフでは言わせてるけど、それだけでは説得力が何も無い。時の国王がウィルモットから侮辱を受けながらも、国王自ら彼を許してしまう、その理由がわからない。(「お前(ウィルモット)の父がかつて私(チャールズ二世)を助けた」というセリフは何度も出てくるけど。)
イギリス王チャールズ二世のことと、ウィルモットが一世を風靡した芝居や詩を、基礎知識として知っていたら、その辺りがスッキリするのかも。


そして、良かったところは、最初と最後にあったウィルモットの独白シーン。
冒頭の『どうか、私を好きにならないでくれ』と、
ラストの『あなたはこれでも私が好きか?』と、3度くり返すところ。
(そう言えばジョニー・デップの実生活でのパートナー、ヴァネッサ・パラディ主演の「橋の上の娘」もこれに似た構成だった。あの映画は良かった!)
あのシーンがあるせいで、この映画が異なる3つの次元を含み持つことになって、重層構造が大好きな私は、最後に思わずにっこりしてしまいました。

この映画の3つの層というのは、
・この物語の語り部としてのウィルモットの最初と最後の独白シーン。
・語られる物語の世界。
・物語の中で演じられる演劇の世界。

3つ目の、「この物語の中で演じられる演劇」は、この映画の中で物語られた世界(=ウィルモットの死まで)を描いた『当世風の男』(=ウィルモットの作家仲間であるジョージ・エサリッジが、ウィルモットの生涯をモデルに書き、当時一世を風靡した演劇作品)が、俳優たちによって演じられていて、その舞台に立ち本人役を自ら演じているのが、サマンサ・モートン演じるところの、ウィルモットの元愛人である女優、エリザベス・バリーなのです!!!
(この説明で、構造がわかってもらえましたか???)

この、最後20分の中で、ウィルモットとエリザベス・バリーの交わすセリフの数々が、非常に応えました。

作家ウィルモットと女優エリザベス・バリーは恋をし、女優は作家によって、自分の中に眠る才能を開花させられ、自らの力で道を切り開き、大女優への道を真っ直ぐに進んでいったのですが...。
作家自身は変わることができず、女優と別れ病を得て、破滅への道を突き進んで行く。
死の直前。
最後の別れをしに、ウィルモットはバリーの楽屋を訪ねます。

「きみを妻にしたら良かった。子どももほしかった。きみは私に生きる意味を教えてしまった。」

そう後悔の念をウィルモットは語るけれど、バリーはきっぱりと、

「私は、いい加減な愛情ではなく、成功という確かなものを選んだの。私はあなたのお陰で才能が開花したけど、今はあなたに対しては何の負い目も無い。あなたへの借りはすべて返した。私は大女優。ロンドン中の人が私を見に来て、拍手を送る。これからはお金を払えば、あなたは私に会うことができるわ。」

そしてこう付け加えます、

「これからは私は、いつもあなたの心の中にいます。」

こう言い残して、満員の観客が待つ舞台へと出ていくのです・・・・・・圧巻。

libertine

バリーとウィルモットが出会ってすぐの時のバリーのセリフの中に、
「私は自分に才能があることを知っている。でも、それを表現する勇気が無い。自分の思いに正直に演じても、認めてもらえないのではないかと怖くて、表現できない!」
というのがあるのですが、これも身につまされるすごいセリフだと思いました。

サマンサ・モートンは、この役には線が太くて繊細さに欠ける?と思いながら見ていたけど、特に、このバリーの最後の恐ろしいセリフを吐くためには、彼女の持っているような強さが無いと、ダメだったんだと思いました。



それにしても、ジョニー・デップはカッコいい!!!!!
病(梅毒は、当時不治の病だった)に冒され、顔と体じゅうがボロボロになっていても、それでもカッコいい!そして、当然、上手い!!!
今本当にノリに乗ってる感じですね。
色々ひっかかりはある映画だけど、ジョニー・デップにしか出来ない役を見事に演じていて、さすがでした。

ちなみに、この映画で国王チャールズ二世を演じていたジョン・マルコヴィッチは、舞台版「The Libertine」では、ジョン・ウィルモットを演じていたそうです。


この作品、私は好きかもしれない...


CLOSE
(このウィンドウを閉じると前のページに戻ります。)