にこアニメ Caelum Gallery/New York 個展について
2006/9/26〜10/14

Caelum Gallery 2006年個展 Top

 前回 信濃橋画廊5(2004年2月2-14日) の個展から2年半ぶり、私の5回目の個展です。


 まず、ニューヨークで個展をすることになった経緯について。

2004年4月のことです。
2004年2月の個展が無事終わったので、当時ニューヨークに短期留学していた友人のところに、遊びに行くことにしました。
仕事場でその旅行の話をしている時、偶然、ある画家の方にニューヨークのギャラリーを紹介していただけることになり、好奇心も手伝って、よく考えないまま、とにかく訪ねて行くことになったのです。
現地に着いて、オーナーに作品ファイルを見せたところ、「あなたさえよければ、うちで発表しませんか」という返事をもらいました。が、その時は個展が終わったばかりだったので、先のことは考えられない状態。とりあえずお話だけ聞いて、帰国しました。
その後、1年近く壮絶に迷った末、次の個展をニューヨークでやることを決意。
(ここまで迷った理由は、かかる費用のこと、外国で自分の作品が通用するのかどうかという不安など。この辺りのことは、当時のブログに詳しく書いています。)

さて、やってみた結果。

あんなに悩んで、迷ったことは、まったくの杞憂でした。
結果的に、内容も現実的な成果も、今までで一番良い個展になりました。

展覧会が評価されたという外見上の成果は、大きく二通りあると思います。
ひとつは、専門家から良い批評が出ること。もうひとつは、売れること。
今回の私の場合は、油彩が4点売れました。
(作品画像の下に、Private Collectionとあるのがそれです。)
私の滞在中、知り合いが見に来てくれることが何度かあったので、レセプションを含めてギャラリーに3回ほど顔を出しましたが、1度目と2度目に行ったら、あるはずの作品が無くなっていて、「売れましたよ、おめでとう!作品は、買われた方が持って帰られましたよ。」と言われて、とても慌てました。
売れたというのと、持って帰ったというのと、二重の驚きで、「えっ!?なんで?」という感じ。
買ったらすぐ壁からはずして持って帰るなんて、日本では聞いたことがなかったので。
(1度目は横の絵を動かすだけで済みましたが、2度目は壁がどーんと空いてしまったので、残った絵を全部降ろして最初から展示をやり直しました。)
だから実は、私は、今回の個展会場の、作品が全部揃ってる最初の状態というのを見ていません。
初めて行ったら、もう絵が無くなっていたんですから!!
(会場風景の一部の写真は、全部揃っているように合成してあります。)
願ってもない良いことが起こったわけなんですが、なんなのこれは?という驚きの連続でした。

ニューヨークのギャラリーでは、作家は常時ギャラリーに詰めることはなく、レセプションに出席するのみなので、どんな方が来てどんな風に意見を言って帰られたか、詳しいことはわかりません。
もちろん、作品が売れた時にも立ち会っていないので、買われた方にも会っていません。
会期中毎日ギャラリーに詰めていて、自分でお客さんの応対をしている、いつもの個展に比べると、どうにも実感が湧かない個展ではありましたが。。。

そんな中で、数人だけですが、見に来てくださった方と直接お話をしました。
そして、以下のような感想を聞くことができました。

・ディテールが素晴らしい。
・この、草の、細かい筆のタッチが美しい!
・スピリチュアルな感じがとてもする。
・作品は、現地に行って描くの?(油彩)
・とにかく、良い!美しい作品だ!(細かいニュアンスは、私の英語力不足により、不明...笑)
・画材は何を使ってるの?(特に水彩について)
・紙は何?(水彩について)

上のように、作品についての感想プラス、自分の経験談。身の上話をする人が多かったです。
たとえば、

・「小鳥」の前で、「私は最近男の子を亡くしたの」と話してくれた、女性の方。
・「若い頃、日本人の女の子と文通してた。日本に行ったこともある。大きなお寺にも行ったよ。一生忘れられない素晴らしい思い出だ!!」と、長々と語ってくれた男性。
・「物質主義と、精神主義の良い部分をバランスよく持っている、日本人の芸術・感性は素晴らしい!」と熱く語って行った、NY在住25年のインド人アーティストの方。

...私が会った方たちは、このようなことを語って帰って行かれました。

オーナーのお話によると、とにかく、見てくれた人の評判は、とても良かった、と。
特に、蓮の絵がとても良いという人が多かったようです。
実際、蓮の絵3点が全部売れた後にも、個展の会期が終了した後にも、「あの蓮の絵はまだあるか?」という問い合わせが何件か入ったそうです。
(まあ、こんなことになると分かっていたら、もう何枚か頑張って蓮を描いたのに!笑)
ただの東洋趣味の外国人の好みでしょ、って言ったらおしまいですが、「良い作品ですね」と口で言ってくれる人は多いですが、実際に絵を買ってくれるかというと、そうはいきません。
普通の買い物をするのではないので、買ってくれるというのは、やはり、すごいことなんです。

今回の個展を決める前、ニューヨークのギャラリー事情について色々情報収していく中で、
「ニューヨークでは、作品が良ければ、無名だろうが外国人であろうが、買ってもらえる」
「ニューヨークには、アート・マーケットがちゃんとある」
という話は聞いていたのですが、それを身をもって体験した個展でした。
多くのアーティストが、世界中からニューヨークに集まる、そのワケがよくわかりました。
たとえば、日本では、学校で教えるか、美術とは無関係の職業を持つかしなければ、作家としての活動だけで生計をたてることは、まず不可能です。
でも、ニューヨークでは、作家として作品を作って販売することで、生活が成り立つ可能性がある。
(私自身がどうというのではなく、「可能性」として、万人に開かれているという意味で。)
これは、ものすごく大きな違いです。


今回の初めてのニューヨークでの発表で分かったのは、

「外国でも、私の作品は、ちゃんと見てもらえるし、評価もしてもらえる。」

ということ。
そういう「可能性」がパッと広がったことは、とても大きな発見で、収穫でした。
こんな風に結果が出てしまうと、「次も...!」という期待がむくむくと湧いてくるのですが...。
さあ、そこで、「現実の壁」が見えてくるのです。
今回、作品は4点売れましたが、それを上回る様々な出費が重なっており、かかった費用を回収するには、とてもじゃないですが、足りません。
今回と同じ、ギャラリーをレンタルするやり方の個展を、ニューヨークでもう一度、二度、するのは、私の経済状況からすると、不可能です。

もともと、一発だけの打ち上げ花火のつもりでやった個展でしたが、こんな風に、「可能性」と「限界」の両方を、同時に見てしまった、ちょっとホロ苦い展覧会でもあったのでした。

でも、やったことは、100パーセント正解でした。
「やってみないとわからない!」と、私の背中を押してくれた方。
ひとりで悶々としている私の話を、根気よく聞き続けてくれた方。
切れそうになったとき、「頑張れ!」「大丈夫!」と、励ましてくれた方。
私の投げかける疑問に対して、たくさんの助言をくれた方。
そして、個展を見に来てくれた方。
本当にありがとうございました。
当分、日本で少しずつ発表していって、機会があれば、また外国でも発表したいと思います。


次の個展は日本です!東京です!(G.山口/2008年5月5日ー17日)
今回見に来ていただけなかった方も、ぜひおいでください!


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