晩秋の野外料理[5]

素材工夫し豊かな味に
野外料理はいろいろあれど、煮込みが一番好きだ。適当な材料を適当に切って、好きに味をつければそれなりにうまい。キャンプの料理というより、家の冷蔵庫の在庫一掃という感じ。
最初に玉ねぎをみじん切りして、炒める。絶対に焦がさないように、ここだけは手が抜けない。じっくりといい色合いに炒められたら成功したも同然だ。あとは材料を適宜加え、スープ仕立てにしていけばいい。
煮込みを仕切る者は焚火の側に座っていられる。これが楽しい。味をつけ、フタをし、周りの風景や空気を楽しみながら火にあたっていればそれだけで幸せ。
次に鍋のフタをとる瞬間がクライマックスだ。立ち上る湯気とともに火を囲んだ全員の頬がゆるむ。寒い寒いと言いつつもキャンプに来て良かった、と思う。
煮込みはよく煮るほどうまいから、大量に作って翌日も食べる。同じ味ではさすがに飽きるから、徐々に違う材料を足して、毎回味を変えるといい。最後の食事には、えも言えない複雑なスープに仕上がっていること請け合いである。
翌朝目覚めてさっそく火を起こす。鍋から湯気が出るころに他のメンバーが起き出して来る、それまでの間、すてきな、静かな森の朝の空気を独占できるのだ。
素材でも工夫を楽しみたい。たっぷりのトマトをつぶして入れれば深い赤の、大量のホウレンソウをみじん切りして入れれば絶妙な緑の彩りを楽しめる。
私のお気に入りは缶詰の大豆。あんなに手軽で、腹持ちがよく、他の材料となじみのいい素材は少ない。寒い時期には少し辛めに仕上げれば、メキシコの農村料理風とでも言おうか、渋く素朴な味わいとなる。
ただし、よく煮込む方がおいしいからと言って、真っ黒になるまで粘るのは禁物。何を食べているのか分からなくなって、もったいないのである。
1995,12,21
文:石井研二 絵:石井光