御来光

美しい景色も安全から
日本人だと感じるのは、思わず朝日に向かって手を合わせたときだ。今年も御来光を拝みに、たくさんの人が山に向かったことだろう。
仕事で東京にいる友人も、帰省の途中、日本アルプスで元旦を迎え、それから六甲を縦走して帰って来ると言っていた。山男のあるべき姿かもしれない。
いつもイラストを描いてもらっている石井光さんは、金沢に住んでいた学生時代、友達に誘われて白山に御来光を見に行ったそうだ。
夜明け前に登り始めて、着いたときにはもうすっかり太陽が出ていたそうだが…。今回の絵にはその時のことを描いてもらった。
登るのは楽ではないが、だからこそ上から眺める太陽の美しさは筆舌に尽くしがたいというやつである。
そういえば、私も学生時代、ワンダーフォーゲル部の友達に連れられて南アルプスへ行き、ほぼ全員ペースが遅くて彼の足を引っ張ってしまったことがある。
予定の山小屋に着かないうちに夜を迎え、冷たい雨にも降られ、お互いの顔も見えないような森の中でテントを張った。
昔ながらの三角テントが満足に広げられない木立の中で、雨が漏るから天幕に触らないように、身を寄せ合って眠ったものだ。
寝苦しい夜だった。そのためか、疲れていたのに翌朝は早起き。早々にテントをたたんで出発した。昨夜着くはずだった山小屋まで来たとき、雲が切れ、急に視界が開けて360度のパノラマとなった。美しい夜明けだった。みんな言葉も出ず、雲海の光を眺めていた。
今にして思えば、あの素人集団には、リーダーの計画が強行軍過ぎたのだ。
毎年冬になると、中高年などの山の事故が絶えない。それだけファンが広がっているということだが、遭難のニュースは困る。全部がそうではないと思うが、計画が甘かった例もあろう。
的確な計画で安全に、野外の旅を96年も楽しみたいものである。
1996,1,4
文:石井研二 絵:石井光