カヌー[1]

まずはリバーツーリング
カヌーやカヤックの楽しみ方のひとつに、リバーツーリングがある。時にはアグレッシブに、時にはゆったりと、川の流れに同調しながら下るのが気持ちいい。
これから始める方には、京都・木津川の笠置~木津間や、熊野川の瀞峡がおすすめ。コースの大部分が穏やかな流れなので、カヌーを漕ぐ練習になる。
少し慣れると川辺の景色を眺める余裕が生まれ、野鳥のさえずりをBGMにしながら、紅葉が楽しめる。岸に近づけば、岩陰に咲く花も見つかるかも。
運がよければ、カモなどの水鳥たちと出会える。今年の夏、僕も京都の笠置でマガモを発見。しばらくの間、観察していると、気づいたことが一つあった。
それはカヌーからの視線が水鳥と同じであること。いつも水鳥が見ている景色を今、自分が見ている。そう思うと自分が自然と一体になれたような気がしたのだ。
流れが急になっている瀬に挑戦するのは、カヌーの醍醐味のひとつ。瀬に入った瞬間の加速はスリル満点で、おまけに波を頭から浴びてしまうこともある。まさに遊園地の「急流すべり」のノリである。
瀬の上のカヌーは不安定な状態。流れより漕ぐのが遅ければコマのように回転してしまう。そのためには、ひたすら漕がなければいけない。うまく瀬を抜けた時は、自然と仲良くなれた気がするのだ。
沈(チン・転覆すること)するのもまた楽しい。カヌーメーカーの老舗、藤田カヌー研究所の創業者である藤田清さんも、乗り始めて2回目にちょっとした油断が原因で沈したそうだ。
「その時、川底の砂のサラサラという音を聞いたんです。以来カヌーのとりこに…」
自らの“沈”体験をこう話してくれた。
カヌーのリバーツーリングはさまざまな形で自然にアプローチできるメニュー。初心者の方は、カヌーメーカーやアウトドアショップ主催の講習会がおすすめだ。
1995,10,5
文:山口幹夫 絵:石井光