アウトドアへの招待
ハンドクラフト[2]

石と語り合うユニークな時間
小学校でほめられて以来、絵をかくのが好きになった。後にアウトドアが好きになると、当然外で絵を描いてみたくなる。
それでアウトドアショップに行ってみると、絵の道具や写真を撮る情報がない。人気のあるジャンルなのに、残念なことではある。「野外文具」を売るショップがあれば、と思っているのは私だけではないだろう。
野外で絵を描くのに技術はいらない。誰かに見てもらうというより、自分のために記録といった意味合いの方が強いからだ。
好きになった風景があれば、同じ場所を何度となく描いてみればいい。上手になるというより、小さな変化が見えるようになる。
「前に来たときより緑が濃くなった」「雲の形がもう秋だ」「あの山がもう紅葉し始めた」といったことが心に刻まれるようになるのだ。
ところで、絵を描くのは紙だけとは限らない。石に描くストーンペインティングというのも、なかなか面白いジャンルだ。
もちろんただ平たい石を探して風景など描くのも楽しいが、やはり究極は石の形を生かしたものだろう。
ストーンペインティングの名人といわれる人の作品を見る機会があった。ひとつの石をまるごと使って登山靴が描かれている。石の表面の細かなデコボコが、ウオーキングシューズのヒモや靴底に見事に生かされていた。まるでもともと靴の形の石だったように見える。
名人は「石をずっと見ていると、何かに見えてくる」のだとか。まさに見立ての妙というものだ。
自然にはさまざまな美しい形がある。野外で出会った石と語り合う時間も、また格別だ。
1995,9,7
文:石井研二 絵:石井光