アウトドアへの招待
キャンプ[3]

心地良いイスの魔力
まず、イラストを見ていただきたい。私の愛用のキャンプチェアである。
仕事の途中、ふと立ち寄ったアウトドアショップで見つけ、「これだ!」と買ってしまった。
かねがねアウトドアには心地良いイスが大切だと思っていたが、やっと見つけた、という感じである。
ハイバックの枠は木、座はキャンバス地。座ると深く体を受け止めてくれるので、動けなくなってしまう。だから、このイスの周りに、ビールの詰まったクーラーボックスや食器や、いろいろなオモチャを積み上げて要塞化してしまうのが私の悪いくせである。
日本人は家のイスにもこだわらずに過ごしてきた。昨今の書斎ブームでやっとイスへのニーズが生まれてきたのではないか。書斎というとデスクが必要のようだが、無理に本を読むこともあるまい。最高のイスさえあれば、充実した思索の時間を過ごせる。
アウトドアの大きな楽しみに「眺める」ということがある。木の葉が風にそよぐのを眺めていると、いつまでも飽きない。向こうの山に雲の影が動いてゆくのを、ぼんやり眺めているのも楽しい。また、たき火などを見ているだけで、気分がリフレッシュされる。
このイスは、もちろんまともな食事には向かない。深すぎて食卓から離れるし、立ち上がって手を伸ばすのもおっくうになるからだ。用途が限られる、多目的ではないところを、私はかえって気に入っている。
自然の中に入ってゆくには、できるだけ荷物を減らして身ひとつになることが望ましい。しかし、私はついつい持ち物リストの一番上に、このイスを書いてしまうのだ。
1995,7,20
文:石井研二 絵:石井光