晩秋の野外料理[4]

失敗は新メニューの糧
パンを焼くのはけっこう好きで、ときどき思い出したように粉をこね始める。
最初は本と首っぴきで、よく分からないままやっていた。長時間こねすぎて、生地をダメにしたこともある。「耳たぶのかたさ」と言われてもよく分からなかったのだ。が、台所で何回か成功すると、アウトドアでもやってみたくなった。
映画『荒野の決闘』で、ワイアット・アープ一家が旅の途中パンを焼いている場面がある。あれをやってみたい。お気に入りの大鍋を車に積み込んだ。
ちょうど今ぐらいの季節の京都だったから、けっこう冷え込む。発酵がうまくいくか心配だったが、とにかく粉をこね、ぬるま湯を使って発酵させた。
そうこうするうちに、焚火も強すぎず弱すぎず、いい感じに落ち着いてきた。いよいよ生地をまとめ、少しずつボール状にしては鍋底に並べていく。これが焼けて膨らめば、くっつき合ってブドウの房のような優しいデコボコをもったパンになる、はずであった。
結果は大失敗で、底は黒焦げ、上は生地のまま。熱が回らなかったのだ。パンの中心部のわずかな部分だけ、どうにかパンらしくなっていたのでそこだけ食べるしかなかった。「発酵はカンペキだった」と強がりを言いながら…。
カレーには最適な、焦げつきにくい鍋だからとタカをくくっていたのが間違いだった。やはり上からも熱が当たるように、全体をホイル包みにするとか、鍋ブタに火を載せるとかするべきだったのだ。
それからあわてて「アウトバック・オーブン」という名の専用鍋をアウトドアショップに買いに行った次第である。これはアルミでできた特厚の鍋で、フタに炭を積み上げても大丈夫なようになっている。これならこんがりとしたパンが味わえるわけだ。
まあ野外料理のこと、失敗を恐れずに、新しいメニューに取り組んでいきたいものである。
1995,12,14
文:石井研二 絵:石井光